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【コラム32】 「統制は細部に宿る」か

刺激的なレトリックが魅力の分子生物学者福岡伸一氏はその新著において、次のように述べています。

「たしかに生命現象において、全体は、部分の総和以上の何ものかである。〔中略〕ミクロなパーツにはなくても、それが集合体になるとそこに加わる、プラスαとは一体何なのか。〔中略〕それは実にシンプルなことである。生命現象を、分けて、分けて、分けて、ミクロなパーツを切り抜いてくるとき、私たちが切断しているものがプラスαの正体である。それは流れである。エネルギーと情報の流れ。生命現象の本質は、物質的な基盤にあるのではなく、そこでやりとりされるエネルギーと情報がもたらす効果にこそある。」

(福岡伸一 『世界は分けてもわからない』 講談社現代新書・2009年 p.125~126)

金融庁は、内部統制報告制度が最初に適用になった平成21年3月決算の会社に係る内部統制報告書の提出状況などを公表しました。その中で、「『重要な欠陥があり、内部統制は有効でない』と評価結果に記載した会社(56社)」について、「『重要な欠陥』と判断した理由として内部統制報告書に記載された例」が開示されています。「重要な業務プロセス」については、以下のような理由が挙げられました(下線筆者)。

・営業部門において、適正な売上計上に必要な契約内容の確認及び承認手続の運用が不十分であったため、当期の売上高について重要な修正を行うことになった。

・輸入原材料仕入プロセス及び在庫管理プロセスの一部において、適正な仕入計上及び在庫計上に必要な承認手続の運用が不十分であったため、当期の買掛金及び棚卸資産について重要な修正を行うことになった。

・新規の非定型取引に係る業務プロセス並びに固定資産の減損会計及び税効果会計に係る業務プロセスにおいて、能力のある経理担当者によって適切に査閲、分析及び監視する内部統制が有効でない。

・連結子会社の売上プロセスにおいて、商慣習上顧客との間に契約書が一部未締結であったり、売上の基礎となる納品の事実を証する書類等を取り交わすことなく業務を遂行していたことが発見された。

・システムの保守及び運用の管理を適正に行うため、「運用・保守管理規程」を定めて遵守することが義務づけられているが、コンピュータデータの保全手続において、当該規程の運用が不十分であったため、同データの一部が消失し、会計データの修復作業を行った。ただし、バックアップデータ復元作業のテスト実施が十分でなく、バックアップデータ消失のリスクを予見できなかった。

(金融庁 『平成21年3月決算会社に係る内部統制報告書の提出状況について』 平成21年7月7日)

上記事例は、確かに事実だけを見れば、業務プロセスの「統制活動」における重要な欠陥であることは間違いありません。
 (最後の事例はIT全般統制に大きく関係すると推測されますが、IT全般統制もまた情報システム管理という業務プロセスの中で実施される活動です)
 しかしながら、契約内容を確実に確認・承認したり、能力のある経理担当者を配属したり、商習慣の誤りを正したり、重要なリスクを認識した上でそれを低減する規程の遵守を徹底させたりする前提は、「全社的な内部統制の有効性」だったはずです。

それだからこそ、「実施基準」における評価プロセス(財務報告に係わる内部統制の評価・報告の流れ)において、「全社的な内部統制の評価結果を踏まえて、業務プロセスに係わる評価の範囲、方法等を調整」することが必要とされ、「全社的な内部統制が有効でない場合、評価範囲の拡大、評価手続きの追加などの措置が必要」と明記されたのではないでしょうか。

業務プロセスの文書化により整備された「統制」が適切に運用されるということは、サンプリングされた統制活動の証跡25件に押印があるということだけではありません。
 もちろんそのような「細部」に統制は宿っています。しかしながら、その細部で実施されている統制の運用が有効であるための前提として、統制環境や情報と伝達という全社的な内部統制の適切性が、仕組みにおいても実動においても求められていたのではないでしょうか。

業務プロセスにおいて運用を実施している責任者・担当者は日常的に統制活動を繰り返し実施している訳ですが、それを取り巻く組織の気風、コミュニケーションという全社的な内部統制の枠組みこそが、その運用の有効性を確実なものにすると考えられます。

多くの内部統制コンサルティングを経験し、現在も2010年2月決算の(内部統制報告制度初年度に当たる)企業及び2年目に入った企業の整備・評価支援を進めているコンサルタントとしては、上記のような全社的な内部統制の重要性を含め、内部統制が細部(業務プロセス)と全体(全社的な内部統制)の中で有機的に機能する必要性を強く感じています。

そのような現場での実感を活かして、プラスαを感じていただけるコンサルティングを目指している次第です。

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