最近、特に今年に入ってから、各監査法人の対応に大きな変化が現れています。監査法人や監査人によって違いがあることは言うまでもありませんが、総じて3点セットに対する要求レベルが急に高くなってきています。少なくても、実施基準に記載されているレベルや、市販されている3点セット作成の解説本のレベルでは、まったく満足してくれないようです。
昨年までは、3点セットの確認を依頼すると、「よくここまで頑張りましたね」「大変よく出来ています」「十分ですよ」と企業が作成した3点セットを受け入れていましたが、2008年に入ってからなぜか手のひらを返したように「まったく不十分です」「業務記述が粗過ぎます」「リスクの識別が足りません」「コントロールが弱いです」「アサーションが網羅されていません」等といった反応が返ってくるようになりました。ひどい場合ですと「その企業にリスクがあろうとなかろうと、我々のデータベースに書かれているリスクはすべて盛り込め」「リスクが該当しないなら、該当しないということを証明できる記録をとれ」と、聞きようによってはいちゃもんを付けたいのかと思われるほどです。そこでやむを得ず徒労とも思われる活動を企業様と一緒に実施するわけですが、企業にしてみれば「こんなことやって何になるの?」と結果的に内部統制システムの構築に不信感を抱くことになりかねません。
私どもは、内部統制システムを構築することによって、プロセスの整理が進み、リスクが顕在化し予防処置をとることができ、他部門の業務が良く見えるようになり一層スムーズな業務処理が進み、効率性が向上するといった、副次的な効果が上がっている姿をたくさん見てきています。金融商品取引法の制定を機にこのような取り組みがスタートしたことは、大変喜ばしいことだと思います。しかし、過度な要求は、企業への負担を増やすばかりではなく、本来の目的を見失い、あたかも3点セットを作成することが目的と化してしまう危険性が危惧されるところです。
3点セットにこだわる割には重要な全社的な内部統制構築、特に統制環境はほとんど気にしている様子のない監査人が存在するのは何故でしょうか?制度が始まったばかりですから多少の混乱があることは理解できますが、当初理想を掲げ、様々な研究がなされて完成した「実施基準」の精神からは大きく離れていっているような気がして仕方がありません。
基本目的の「虚偽記載を防ぎ、投資家が判断を誤らないよう、適正な有価証券報告書を開示する」に立ち返り、木を見て森を見ないような活動がいつか改められ、世界に誇ることができる日本の内部統制が正しい姿で定着するには、まだまだ時間がかかるように思われます。実施基準に記載されている目的は「業務の有効性及び効率性」「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる関連法規等の遵守」「資産の保全」です。
企業の皆様も、色々なご苦労がおありになると思いますが、必ず効果が現れることを信じて、活動を継続してゆきましょう。