内部統制構築に関わる事務局の皆様にとって、悩ましい課題の一つに「全社的な内部統制」があります。今回は、このことについて考えて見たいと思います。
金融商品取引法内部統制は企業会計不祥事を発生させないための、又は発生してしまった場合に、役員の責任を限定するための「法的対応」がそもそもの趣旨です。「役員の責任を限定する、役員の法的リスクを回避する」ことが大切な目的とするならば、答えを見出すためには、種々の法的な「学説」や、「判例」及び「和解所見」を無視することは出来ません。役員が不幸にも「善管注意義務違反」の責任を問われ、「内部統制システム構築義務違反」の有無を司法の場で検証される時に基準となるのは、「(リスクの)調査・会議(議論)・判断プロセスの合理性・判断内容の合理性」を要素とする「経営判断の原則」であるとする学説は近年、司法の世界ではトレンドになってきています。
このようなことを考えていくと、金融庁公表の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」に明示されている「財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例(以下、42の評価項目)」は、不幸にも証券訴訟等のリスクに見舞われたときに「役員を守るための最低基準」と解釈することが最適な理解と考えるべきでしょう。
「42の評価項目」を利用して「調査・会議・判断プロセスの合理性・判断結果の合理性」を現実に具現化し、いざと言うときにいつでも「(調査・会議・判断プロセスの合理性・判断結果の合理性が可視化された)記録」を提出できるか否か。ぜひ、このことを検証されてはいかがでしょうか。
その際、忘れてはならないのは「会社法」の存在でしょう。会社法第362条第4項第6号には次のように書かれています。
「取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない~六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」。
ということは、いままでご説明してきたプロセスは「取締役会の専決事項」であり、会社法的裏づけのない「常務会」や「経営会議」、「コンプライアンス委員会・リスクマネジメント委員会・J-SOX内部統制委員会」等でのプロセス内容は、役員の責任回避の直接の証拠としては採用されない可能性が高いと考えざるをえません。合議体としての取締役会の「運営プロセス」自体が見直されなければ「42の評価項目」は有名無実になる可能性があるわけです。そうであるならば、構築の最終局面は「いかに取締役会役員層主体の仕組みを構築するか」ということになってくるでしょう。PJCは、内部統制システム構築支援で果たすべき社会的使命として、経営者の方や役員の方との、直接のコミュニケーションを取りながら、「全社的な内部統制構築」や「ガバナンスの有効性の確保」という点を、最重要視しています。