金融庁による実施基準II.2.(1).①.ハでは海外子会社の内部統制に関して、「在外子会社等についても、評価範囲を決定する際の対象に含まれる」と定義されています。
売上高等の要因による重要な事業拠点の選定に際して、業務プロセスまで評価範囲とするか全社的な内部統制の評価に限定するかなどの違いはありますが(財務報告に対する影響の重要性が僅少な事業拠点の議論は別として)、海外子会社の内部統制システムの整備を行うことは、内部統制の評価を行う上で重要なプロセスの一つです。
ところで実施基準における在外子会社の英訳はForeign Subsidiaryですが、Subsidiaryとは「親会社の支配を受ける」という意味があります。私たちコンサルタントも、海外子会社の全社的な内部統制システムの構築支援にあたっては、最初に「本社の海外子会社に対するガバナンスをどう構築するか」という視点で考えますし、「組織の気風を決定し、組織内の全ての者の統制に対する意識に影響を与える」という統制環境の定義を考えれば、本社の体制を基本に展開することは妥当なアプローチ手法だと考えられます。
しかしながら、実際に海外子会社の内部統制システム構築支援を開始しますと、本社のガバナンスを「組織的に適用させる」といった管理手法だけではなく、現地の日本人管理職、駐在員による「人間力」に依存することが多いことを実感いたします。また合弁会社の場合、「組織の気風を決定する」要素として合弁相手先の企業風土、管理方式等によっても大きな影響があります。
さらに「統制活動」や「情報と伝達」という基本的要素や、業務プロセスの文書化を整備するためには、言語や方針・手順に対する違いも考慮する必要があります。「統制活動」を規定するために日本で一般に整備されている職務分掌表と海外におけるJob Descriptionには少なからぬ差異がありますし、「情報と伝達」についても、本社と日本人スタッフ、日本人スタッフと現地スタッフとのコミュニケーションギャップを解消するという課題があるように、当然ながら環境と言葉の問題があります。これには通訳の方の力量による部分が大きいことは言うまでもありませんが、実際に海外子会社へうかがってコンサルティングをしてみると、通訳の方の日本語スキルは自明のこととしても、彼らの業務内容に対する適切な理解には驚くばかりです。そうした事実も海外子会社の内部統制を適切に構築するための重要な統制環境と考えられます。
内部統制の構築において「財務報告の信頼性」が主要な目的であることは言うまでもありませんが、「業務の有効性と効率性」や「コンプライアンス」という目的の方が海外子会社においてより分かりやすい「共通認識」であると感じることがあります。そういう意味でも、内部統制の原則的な考え方であるCOSO、ERM(Enterprise Risk Management)というフレームワークこそが、本社と海外子会社を有機的に結び付ける鍵であると実感する次第です。