みなさん、こんにちは!
第4回は、「マテリアリティ分析とKPI設定」をテーマとして進めてまいります。
今回のテーマでは、事業活動を通じて「環境」「社会」「経済」の観点で持続可能な状態を実現するという観点から、自社の企業価値と関係が深いマテリアリティを特定し、達成すべき指標を定めて取り組みを推進するプロセスについて解説したいと思います。
「マテリアリティ」とは、持続的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けて、自社の企業活動において重要度の高い課題の中から特に優先して取り組むべき「重要課題」のことをいいます。取り組むべきマテリアリティが決まったら、次はマテリアリティの実現に向けて達成指標となるKPIの設定と活動計画を立案し、「マテリアリティ活動計画書」として全従業員に周知していくことになります。
「KPI」(Key Performance Indicator)とは「重要業績評価指標」ですが、サステナビリティの重要課題に対する取り組み指標(評価指標)を示す言葉です。例えば、環境保全におけるKPIとして、温室効果ガス(GHG)の排出量や廃棄物におけるリサイクル率など、取り組み指標を定めて取り組んでいきます。目標達成プロセスでは、KPIの達成度合いを監視・測定(モニタリング)するため、KPIは定量的な指標を設定するようにしましょう。
それでは、マテリアリティとKPIの決定プロセスについて解説します。
【STEP1】社会課題の抽出
このステップでは、持続的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けて、事業活動を通じて取り組むことができる社会課題を抽出していきます。課題を抽出する際は、自社における外部・内部の課題やステークホルダーのニーズ・期待から得られた情報、地球温暖化、多様性の尊重およびパンデミックなどグローバルメガトレンドも考慮に入れて検討し、リストアップしていきます。
しかし、サステナビリティ推進に伴う社会課題を白紙の状態から検討する場合には、多大な労力と時間を必要とします。
そこで、社会課題の抽出プロセスでは、第2回のコラムで紹介した「ISO 26000:2010-社会的責任に関する手引き」(Guidance to Social responsibility)、またはGRI (Global Reporting Initiative:サステナビリティ報告基準)などを利用して、網羅的かつ効率的に作業を進めていくことをお勧めします。
ISO 26000:2010では、社会的課題として「組織統治」、「人権」、「労働慣行」、「環境」、「公正な事業慣行」、「消費者課題」、「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」の7つの活動テーマを提示しています。また、GRIでは、「経済」、「環境」、「社会」の持続可能な発展への貢献を目的としてテーマごとに34項目の活動テーマを提示しています。これらは国際的なフレームワークであるため、社会課題の抽出プロセスでは大変に参考になりますのでご活用ください。
【STEP2】重要性評価とマテリアリティの決定
マテリアリティを決定する目的は、企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティの取り組み姿勢を“見える化”することでステークホルダーとの信頼関係を深めることや、決定したマテリアリティを社内に周知することで自社の課題を再認識し、目指すべき方向を一致させることにあります。
マテリアリティの決定では、企業価値を向上させるために解決すべき課題と企業価値を低下させる課題を特定し、自社の「マテリアリティマップ」として策定します。
STEP1で抽出された社会課題に対する重要性の評価は、事業活動によって生じる社会課題や環境汚染への予防・低減(リスク=マイナス要因)と事業活動を通じた社会貢献や環境保全活動(機会=プラス要因)の両面からアプローチしていきます。
自社における内部および外部の課題など、自社にとっての重要性評価は、経営者はじめサステナビリティ委員会およびプロセスオーナー(部門長)によって評価・検討します。また、社会およびステークホルダーにとっての重要性評価については、必要に応じて顧問弁護士および有識者などを入れて検討し、その結果に基づいて企業の持続的な成長と企業価値向上の実現に向けて推進すべきマテリアリティを策定します。
【STEP3】KPIおよび活動計画の設定
STEP2で決定したマテリアリティの実現に向けて、企業の目指すべき将来像の明確化とその達成に向けた具体的なアプローチ手法を明確にすることを目的としてKPIおよび達成に向けた具体的な活動計画を策定します。
一般的なKPIの設定方法は、特定したマテリアリティを踏まえて「中長期的な目標設定」とその達成に向けた「単年度目標」を設定します。例えば「CO₂削減」では、中長期的目標として「2030年度目標:2017年比50%削減」とし、2023年度の単年度目標としては「前年比3%削減」とします。
サステナビリティ委員会は、検討されたKPIと具体的な活動計画について全体の適切性、有効性、妥当性を確認のうえ決定し、KPIと活動計画を明確にした「マテリアリティ活動計画書」を作成し社内に発表します。
また、マテリアリティ実現に向けた計画は、中期経営計画および単年度事業計画にも織り込むことが重要です。
ここで、KPIを設定するプロセスで注意すべき3点について解説いたします。
1つ目は、KPIは「測定可能」であることです。KPIの達成状況は、月単位、半期単位または年度単位にモニタリングするため、数値化されていないKPIでは目標の達成状況を正確に把握することが困難になります。
2つ目は、設定したKPIの「妥当性」です。自社の経営資源(体制、設備、資金力、技術力など)や現在の経営状況(財務状況)に照らして、達成の可能性の高いKPIを設定し、それを全従業員に理解し納得してもらうことが重要です。明らかに達成が困難なKPIでは従業員のモチベーションが低下し活動の停滞につながりかねません。
3つ目は「活動計画の具体性」です。KPIを達成するための計画が具体性のないスローガン的である場合、従業員も具体的なアクションを取ることができなくなります。
このようにKPIおよび活動計画の設定ステップでは、時間をかけてしっかりと検討し、トップダウンとボトムアップの両方の意見を検証した上で、有効かつ効果的な計画を策定することが重要と考えます。
次回は「サステナビリティ運用とパフォーマンス評価」について解説してまいります。